女ドクター航海記
大洋漁業の北洋漁業船団が船医を募集していた。
操業は北極海です。数十隻の独航船を率いる母船に来てくれる物好きな医師などいない。
「医師の資格を持つ人なら誰でもよい」という程、会社は困っていたのです。
この募集に応えたのは東邦大学付属病院に勤務する女性教授の田村京子さんです。
会社側では「誰でもかまわない」といったものの、さすがに女性の応募者には困惑します。
別に女性蔑視ではないけど、船団は荒れ狂う北方洋の中で働く荒くれ男達の集団です。
そんな中で、内科も外科もあらゆる病や怪我に対応しないとならないドクターが必要なのだ。しかも航海は2ヶ月以上にわたるのだ。医師は孤軍奮闘になるのです。
でも背に腹は代えられない。田村良子さんを受け入れるのだった。
母船といえども客船ではない。あらゆる設備が女性向きでなかったから、相当な改造をして女医さんを迎えることになる。
それでも田村さんには大変な苦労が待っていた。
お風呂も洗濯場も専用のものを用意してくれたし、厳しい水の制限も緩和して貰うが、男達は、特別に優遇された田村さんを白い目で見るのだった。
田村さんはそんな本来の医療行為以外に大変な経験をすることに。
田村さんを馬鹿にしたり、無視していた独航船の荒くれ男達もやがて、田村さんの熱意と誠意に打たれ、医療行為を受けることになるし、尊敬すらしていくのです。
2ヶ月の操業を終えて日本に帰国した船団は、解散式を行う。
田村さんの送別会も盛大に行われ、田村さんは達成感に浸るのだった。
荒くれ男ほど、敵愾心をもっていた者ほど、田村さんにむき出しの謝意を示すのです。
私の感想です。
今は、全員女性のデパートが出来たり、女性の社長や役員が増えたりする時代です。
今はなれない職業はない、くらい女性は各分野に進出してます。
女子力は絶対に必要とされている時代です。
でも田村さんが活躍したのは、昭和57年のこと。
まだまだ職場では女性の地位は低かった頃です。
私は読んでいて、私の辛い経験と重なる箇所が随所にあり、大変勇気づけられました。
そしてもう一つ思ったのは、性善説です。どんなに意地悪な人でも、一皮むけば、心は優しかったりなのです。
自分に反省すべきことや、自分を変えてみたりする必要があるのだと。
読後にそんな事を考えていて、気持ちが明るくなった1冊でした。
これだから、私の古書店あさりは止められない。